Artscape 《論中國的技術問題》(Genron, 2022) 書評 (日文)

昨年、哲学者ユク・ホイの主著2冊が立て続けに日本語に翻訳された。その1冊が『再帰性と偶然性』(原島大輔訳、青土社)であり、もう1冊が本書『中国における技術への問い』(伊勢康平訳、ゲンロン)である。かれのおもな専門は技術哲学だが、過去には哲学者ジャン=フランソワ・リオタールが手がけた展覧会「非物質的なものたち」(1985)についての論文集の編者を務めるなど★1、現代美術にも造詣が深いことで知られる。

本書『中国における技術への問い』は、近年まれにみるスケールの哲学書である。著者ユク・ホイは香港でエンジニアリングを、イギリスで哲学を学び、ドイツで教授資格(ハビリタツィオン)を取得したという経歴の持ち主だが(現在は香港城市大学教授)、本書を一読してみればわかるように、そこでは英語、中国語はもちろん、ドイツ語やフランス語の文献までもが幅広く渉猟されている。そのうえで本書が投げかけるのは──まさしく表題にあるように──「中国」における「技術」とは何であるか、という問いである。

そもそもこの「技術への問い(The Question Concerning Technology)」という表現は、ハイデガーによる有名な1953年の講演(の英題)から取られている(『技術への問い』関口浩訳、平凡社ライブラリー、2013)。本書は、かつてハイデガーが西洋哲学全体を視野に収めつつ提起した「技術への問い」を、中国哲学に対して差しむけようとするものである。せっかちな読者のために要点だけをのべておくと、本書でホイがとりわけ重視するのは「道」と「器」という二つのカテゴリーである。大雑把に言えば、中国哲学においては前者の「道」が宇宙論を、後者の「器」が技術論を構成するものであり、ホイはこれら二つの概念を軸に、みずからが「宇宙技芸」と呼ぶものの内実を論じていくことになる。言うなればこれは、古代ギリシアにおける「テクネー」を端緒とする西洋的な「テクノロジー」とは異なる、中国的な「技術」の特異性を明らかにする試みである。

Read more

Latest from Blog

《藝術與宇宙技術》俄文翻譯出版

許煜的《藝術與宇宙技術》(2021)的俄文翻譯 (Искусство и космотехника) 最近由AST出版社在“Слово современной философии(當代哲學語話)”系列

《論中國的技術問題》西班牙文翻譯出版

阿根廷布宜諾斯艾利斯的出版社Caja Negra剛剛出版了《論中國的技術問題:宇宙技術初論》的西班牙語翻譯。該出版社之前已經出版了《遞歸與偶然》的翻譯和一本題為《碎片化未來:論技術多樣性》的西班牙語選

出版:《21世紀的控制論 卷1: 認識論重構》

《21世紀的控制論 第1卷:認識論重構》由香港Hanart Press 以開放獲取的形式出版。在這部選集中,歷史學家、哲學家、社會學家和媒體研究學者探討了控制論的歷史,從萊布尼茲到人工智慧和機器學習,